HLAの発見者,ジャン・ドーセの死

ジャン・ドーセという科学者が6月6日に92歳で亡くなった。彼はHLAを発見し,その功績により1980年にノーベル医学・生理学賞を受賞した。

国会では,臓器移植法の改正が審議されている。ちょうどこのときに,臓器移植と関わりが深いHLAの発見者が亡くなった。このことの報道がほとんどないのは,わたしとしては意外に感じる。とりあえずは,自分で書いてみることにした。

HLAはhuman leucosyte antigenの頭文字で,ヒト白血球抗原のことである。白血球から発見されたので,このような名になっているが,すべての細胞の表面にある。また,HLAには多くの型がある。

一度かかった病気には,二度目にはかかりにくいか,かかっても軽くすむことが知られており,この現象は,疫(=流行病)を免れることから免疫とよばれた。その後の研究で,免疫の本質は,自己と非自己とを区別することだとわかった。そして,自己と非自己とを区別する印がHLAの型なのだ。

からだに侵入する病原体などの異物(=非自己)を排除するしくみが免疫であり,HLAの型の違いによって,非自己であるかどうかを判定しているわけだ。

病気などによって機能を失われた臓器を,他の人から移植して,機能を回復する方法が臓器移植である。でも,臓器移植には拒絶反応が伴う。これは,移植された臓器が,非自己とみなされることによって起こる。免疫は,侵入してきた病原体に対しては,からだを守る大切な機能だが,臓器移植には困った問題なのである。

でも,自己と非自己を識別するしくみが解明され,HLAの型を調べて移植することが可能になった。ただし,HLAが完全に一致することはまれなので,実際の臓器移植には,免疫を抑える薬(免疫抑制剤)が欠かせない。病原体の侵入を防ぐ働きを維持したまま,移植した臓器の拒絶反応だけを極力抑える薬が開発されている。

臓器移植は,HLAの型をできるだけ一致させるとともに,免疫抑制剤を使って,必要な免疫機能の維持と拒絶反応の抑制のバランスをとることで,成功率が飛躍的に向上した。