生命観を問いなおす

生命観を問いなおす―エコロジーから脳死まで (ちくま新書)

生命観を問いなおす―エコロジーから脳死まで (ちくま新書)

植物を栽培して,それを食料にする。動物を飼って,ときに働かせ,いつかは食料にする。木を切って薪にし,住居を造る材料にする。石炭や石油を掘り出し,燃料や樹脂などの材料にする。

ヒトという生物は,他の生き物や地球環境を貪欲に活用することで,地球における生物の頂点にある。他の生物を犠牲にして,地球資源を消費して,ヒトはここまで繁栄することができた。他の生き物を有効に利用する方法,地球資源を発見し,それらを活用する知恵を,われわれが築いてきたからこそである。

いま,他の生き物との共生や,地球環境の保護が叫ばれる。都市での生活をやめ,自然との共生が,これからの生きる道であると唱えるものもいる。しかし,真に自然と共生することが可能なのだろうか。ヒトが生活することは,自然と対峙することではないのだろうか。

私たち自身の生活環境を,私たち自身が変えた上で,それが私たち自身にとって不利になると今度は,それをもとに戻そうとする。これは,ヒトの身勝手な生への執着の延長でもある。自身が生活できなくなるまで,生きることに執着する矛盾に気づかなければ,環境問題も脳死問題も,正確に理解できないという著者の論理には共感する。

脳死者の人体実験についてはじめて知った。臓器移植の正当性から考えれば,当然行き着く問題である。しかし,脳死の議論では,ほとんど話題にのぼらなかったのはなぜなのか。臓器移植を考える上で,脳死者の人体実験について議論することは,非常に重要であると感じた。

これからますます先端科学が生活に関わってくる。そのようなときに,重要な問題をタイムリーに話題にのせるジャーナリストが必要になると痛感した。どちらかにくみするために存在するお抱えジャーナリストではなく,正確な情報を一般に理解させる優秀なジャーナリストの活躍に期待した。

なお,梅原猛脳死に対する考え方への批判は,その内容の是非とは別に,やや冗長に感じた。梅原を出さなくても,著者自身の論理をさらに展開してくれた方が,わたしとしてはうれしい。