「おはようからおやすみまでの科学」

おはようからおやすみまでの科学 (ちくまプリマー新書)

おはようからおやすみまでの科学 (ちくまプリマー新書)

「便利さとは,自分自身の中にある能力を失うこと」(池内了)。残念だがその通りかもしれない。人は便利さを求め,その便利さが当たり前になると,もっと便利なものを求める。そうしていくうちに,本来は自分でできたこともできなくなる。
もちろん,能力を失ったところで,問題のないことも多い。新しい時代に応じた能力を身につけるため,不要になったものを手放すこともあるだろう。そのバランスがとれているかどうかが問題だと思う。
さまざまな情報があふれている環境の中から,どの情報を利用しているかは,動物によって異なっている。たとえば,コウモリは超音波を使って,障害物を認識する。生物はその種に固有の「環境世界」に住んでいるという,ドイツの動物行動学者ユクスキュルの考え。
人間は科学の力によって,この環境世界を大きく変えてきた。どんどん変えていくうちに,どうも能力を超えた,かけはなれたものになってきているのではないか。生活者という視点で,科学を見直してみようというのが著者たちの主張のようだ。
リビング・サイエンスの発想は,大切であり興味深い。このまま科学が人々から遊離していけば,いまのような科学の恩恵を受けた生活はむずかしくなるのではないか。また,科学はただ危ないものという印象だけでとらえられる不安もある。著者たちの活動に期待したい。
と,やや投げやりな感想になっているのは,読んだのがしばらく前で,記憶がかすかになっているためである。このようなあいまいな感想で失礼。
最後に,「論理的想像力(ロジカルイマジネーション)」ということばが,この本でもっとも印象に残った。身近なことを論理的に見る姿勢の大切さと,そこから広がる科学の世界のおもしろさ。これを実感することが,リビング・サイエンスの出発点なのかもしれないと,勝手に思っている。