環境問題の基本のキホン―物質とエネルギー (ちくまプリマー新書)
- 作者: 志村史夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2009/03
- メディア: 新書
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物質やエネルギー,さらにエントロピーについて,やさしく解説しようとする著者の思いはよく伝わる。イラストが手書きで,もしやと思ったら,やはり著者自身が描いたもの。意欲的なこともよくわかる。
ただ,その内容は本当に分かりやすいのか。また,環境問題を考える助けになるものなのか。そこのところは疑問に感じる。たとえば,物質について,この本に書かれていることを理解すると,環境問題をどのように科学的に捉えることができるのか。環境問題の基本のキホンというならば,そこが重要だと思うのだが,極端な言い方をすれば,科学の基本についての解説は,著者の自己満足に終わっているようにも思う。
環境問題については,たとえば,地球温暖化の原因はCO2ではないというように,著者は批判的な立場である。マスコミで取り上げられることは,科学的には間違っているというのが,著者の思いであるようだ。しかし,その点を科学的に解説はしているとは思えない。何だか中途半端で気持ちが悪い。
環境問題に対して,過剰と思える反応も多いだろう。しかし,著者の主張は,その対極にあるようで,同様に信じがたいものがある。科学的な解説になっていないので,何とも批判のしようもない。このような内容が,若者を対象にした新書のシリーズであるちくまプリマー新書に入っているのが不思議なくらいだ。ただ,ちくまプリマー新書には,池田清彦「環境問題のウソ」もあり,編集部の考え方なのかとも思える。わたしにとっては,考え方が違うからこそ意味があるが,これらの本しか読まない若者がいたらと心配になる。環境問題について考える上で,最初に読むべき本とは決して思わない。
最後に,具体的な批判を1つだけ。原子力発電については,かつてのわたしは絶対反対であった。しかし,反対運動のある中でも,徐々に発電量が増えていった。それが実現できたのは,賛成派が多数だったからだと考えるしかない。その結果,原子力発電はなくてはならないものになった。その現実は受け入れなくてはならない。
ただ,著者の次の記述には一言言いたくなる。
「先にも述べました原子力発電の事故の究極の原因はいずれも,この自己制御機能の不備でした。原子力発電自体は基本的には安全なのです。」(P.143)
何が安全なのか。これで安全と言い切るところが問題なのではないか。制御機能に問題があり,そのために事故が起こるなら,そのシステムは安全と言えるのだろうか。最終的には,人が操作するとしたら,人によるミスだって考慮したシステムでなくてはならない。
何も100%を求めているわけではない。100%ではないことを自覚することと,それをしっかりと伝えた上で運用することが大切なのではないか。事故を隠すような状況では,最低限の安全性ですら保障されていない。そのようにわたしは考える。