寺田寅彦は何をやったか

 天災は忘れた頃にやってくる。寺田寅彦のことばとして有名だ。彼の残した随筆集は,いまでも多くの読者を持っている。また,夏目漱石の門下としても知られている。
 その寺田寅彦の科学者としての業績は何か。どこかで,X線回折の研究をしていたと読んだ記憶がある。ラウエ斑点で名を残したラウエにわずかに遅れたため,その分野では名を残せなかったと。
 その後,地球科学の分野に進んだようだ。当時,世界的に有名な科学者であった長岡半太郎に反論したらしい。確かに,長岡半太郎は原子モデルで有名であった。その勢いで,専門外の地球科学について,自説を唱えたらしい。その内容がお粗末で,寺田寅彦には気に入らなかったようだ。
 しかし,寺田は地球科学でどのような研究をしたのか。
 先日,日本海の形成についての資料を調べていたら,そこに寺田寅彦の名前があった。広域引張開裂説(Terada, 1934)とある。プレートテクトニクス以前に,このような発想をするとは驚きだ。
 また,寺田寅彦の随筆を読んでいると,「複雑系」に関わる考察が発見できる。ほんとうに不思議な科学者だ。
 なお,「天災は忘れた頃にやってくる」は,彼の随筆のどこにも見当たらないらしい。三陸沖の地震と,それに伴う津波について,それに類することが書かれている。世代を越えては,災害の恐ろしさが伝わらないと言う内容だったと思う。これは天災に限った話ではなさそうだ。