高校に入り,モノクロ写真の現像をはじめた。ネガフィルムの現像と,引き伸ばしができる機材とそろえた。
ネガフィルムの現像には,現像タンクとよばれるものを使う。フィルムは感度が高いので,完全に遮光する必要がある。夜暗い部屋で厚い布団をかぶって遮光して,撮影したフィルムを現像タンクに入れる。本当はダークバックとよばれる遮光袋を買えば,明るい部屋でも簡単にできるのだが,わたしは買わなかったため,このような面倒なことをしていた。
現像タンクは,すき間を空けてフィルムを巻きとることができるリールと,それをおさめる遮光ケースからできている。遮光したまま,現像液を出し入れや,温度計の抜き差しもできる。
フィルムを入れた現像タンクに,まずは現像液を入れる。最初はやや強めにリールを回転させて,フィルムに現像液をなじませる。あとは,定期的に軽く撹拌。時間になったら現像液を出し,停止液を入れる。
現像液はアルカリ性,定着液は酸性なので,停止液は酢酸で酸性にした液をよく使った。流水でよいという人もいた。停止液の次は定着液。定着液を入れてしばらくすれば,多少の光をあてても露光はしない。
その後,流水でよく洗い,つるして乾燥させる。おもりのついたクリップを下端につけることで,フィルムがカールするのを防ぐ。ドライヤーで乾燥させるのはフィルムによくないと言われたが,急ぐときは使うこともあった。
これでネガが完成する。現像液は数回,定着液はもっと使えたが,あまり保存はできない。また,夏場は温度管理に氷がたくさん必要で面倒だった。
引き伸ばしは,夜雨戸を閉めた自室で行った。机の上を片づけて新聞紙を引き,そこに現像液,停止液,定着液の入ったバットを並べる。引き伸ばし機にネガをセットし,印画紙をはさむイーゼルマスク上に像を結ぶ。専用のルーペでピントを正確に合わせて一旦スイッチを切る。イーゼルマスクに印画紙をはさみ,適当な時間だけ露光する。
その印画紙を現像液に入れて,像が現れるのを確認する。印画紙の感度はフィルムに比べるとずっと低く,特に赤い色には感じにくい。安全ランプとよばれる赤いランプをつけて作業をする。像が出てくるところは何とも言えずワクワクする。定着まですんだ印画紙は,よく水洗いして乾燥させる。
最初のころは,印画紙のベースが水を吸い込み,うまく乾燥させないとカールしたが,徐々にプラスチックコートのものに変わり,簡単に乾燥できるようになった。
思い出しながら一気に書いたが,実際にやったことがない人にはわかりにくいだろう。当時の機材は,結婚して家を出るときにすべて処分したのでいまはない。いまはデジカメとPhotoshopがあれば,あのころやっていた以上のことが可能だ。味気ないと言えばそうかもしれないが,わたしはいまの環境の方が,高性能で便利になっており,その分だけ写真に専念できるので,すばらしいと思っている。