天才科学者たちの奇跡

あとがきに,「わたしは科学者でも,科学史の研究家でもなく,一介の小説家にすぎないのだが,数式による説明ではなく,人間としての科学者を語ると言うことになれば,いささかの自負がある」とある。その通り,科学的内容を文章で説明しながら,人間である科学者について,たいへん興味深く,わかりやすくまとめてある。
世の中では,単純に,文系・理系と分けることが多い。しかしそれは,効率よく学習するための単なる手段ではないかと感じることがある。それがますます浸透してきて,はじめから一方の学習をあきらめる傾向があるのではないか。

聞いたことがあるエピソードもあるが,著者なりのまとめ方があり,興味深く読むことができる。わたしは,科学者のエピソードをあまり知らないからか,各章を新鮮な気持ちで読むことができた。特に,キャベンディッシュの章はおもしろかった。
ただ,雷が多いと,大気中で窒素酸化物ができる。それが最終的に肥料になるため,雷が多いと豊作になるという話は,ほんとうなのかと疑いたくなる。また,ところどころに正確さに欠ける表現があるようにも思う。たとえば,79ページに,水がほぼ電離しているかのような説明がある。さらに,食塩の溶解について,明らかに誤った説明がある。

ひとつの誤りもないような記述を求めたら,誰も何も書けなくなる。ある程度,不正確な点が残っていても,大きな誤解を生むことがなければ,またいつかそれらが補正できるものであるならば,このような本が世に出ることの方がより重要であるとわたしは思う。