- 作者: 福岡伸一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/05/18
- メディア: 新書
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動的平衡の考えをもとに,生命のしくみを解説する。そこにさまざまなエピソード,著者の体験などをまじえて,読者を飽きさせない。
通常,わたしは,このような本に情緒的な表現は好まない。また,回りくどい解説や,難しい表記は,内容理解の妨げになると思う。この本は,冒頭でロックフェラー大学の話が続く。他にもこのような展開があるし,ところどころに難しい表記が現れる。にもかかわらず,それほどいやな印象もなく,読み進むことができた。中途半端に飾る表現であるなら,きっと嫌気がしただろうが,この著者の文章は半端ではないように思う。
遺伝子の本体がDNAであることを学習するとき,必ず登場するのがエイブリー。高校の教科書ではよくアベリーと表記されるこの人が,どのような研究者であったか。このエピソードはおもしろかった。
DNAの構造解明,PCRの発明など,定番の話題についても,おもしろく読むことができた。PCRのマリスが書いた本を翻訳したのが,この本の著者であったことをはじめて知った。
シュレーディンガーの本が与えた影響はよく聞く。「原子はなぜそんなに小さいのか」というテーマからの展開も楽しめた。シュレーディンガーの本は以前に読んだはずなのだが,今回はじめて知るような気がするのは,わたしの理解の浅さゆえか。
タンパク質をジグソーパズルのピースにたとえ,基質特異性を示しながら生命活動の本質を説明する。根底には動的平衡が流れている。著者の行った研究の話題も,うまく織り交ぜている。高校生物でよく出てくる細胞分画法や,放射性同位体を使って物質を追跡方法も,著者が語ることでリアルに感じられる。
ノックアウトマウスをつくったその結果は,実に興味深いものだ。この例からも,生命のすがたが見えてくる。たいへんうまい話の展開であると思った。