メールを「打つ」

携帯電話でボタンを押しながら,メールの本文をつくる。このような場合は,メールを「打つ」と表現できそうだ。親指1本で,次々と文字を入力していき,文をつくっていく。親指がすばやく動き,ボタンを連打する。まさにメールを「打つ」という感覚だ。

他にはどのような表現があるのか。メールを「送る」というのは,送信だけを指していて,本文をつくる操作とは違うように思う。メールを「作成する」とか,「入力する」とかでは,あまりに硬い表現だ。

タイプライターで文字を印字する操作は,タイプを「打つ」と言ったように思う。カーボンの上を,金属製の活字が勢いよくあたり,カーボンの下の紙に文字が現れる。ほどよく印字されるように,紙の背後には適度な硬さのゴムがある。パチン,パチンという音とともに,規則正しく文字が並んでいく。これも「打つ」という表現がピッタリだ。

コンピュータのキーボードには「たたく」がある。「打つ」とも言うようだが,キーボードを「たたく」の方がよく似合うのではないか。コンピュータのキーボードでは,タイプライターのように,パチン,パチンと「打つ」ような響きがなく,ただキーを「たたく」音だけ。文字そのものは,画面上に音もなく現れる。

ところで,わたしは「打つ」というと電報を連想する。おそらく,わたしの時代の電報は,もう“トン・ツー”と「打つ」ものではなかっただろう。でも,電報はやはり「打つ」ものだった。

携帯電話のメールを「打つ」というのも,何となく電報のイメージが,わたしの根底にあるのかもしれない。