朝,娘と家を出た。いつもは時間が少しずれているが,きょうはたまたまいっしょになった。
 わたしはいつも階段で降りるが,娘はエレベータにのる。わたしたち親子は,自分のペースをくずさないたち(つまりマイペース)なので,わたしは階段,娘はエレベータに。別に仲が悪いわけではなく,当然そうなる。
 わたしが階段で地上まで降りると,ちょうどエレベータがついて娘が出てきた。またいっしょに。そのまま地下鉄の改札までいっしょに歩き,改札を通ったところで,娘が知人を見つけて走っていった。
 そういえば,娘が高校に入りしばらくしたころ,日曜日に部活で,ある会場にまででかけることになった。しかし娘は,電車の乗り換えが迷わずできるか心配していた。結局,わたしが乗り換え場所までいっしょについて行った。日曜の朝早く,わたしも早起きしていっしょにでかけた。何とも甘い父親である。
 表示が出ているとおりに歩いていくだけで,乗り換え口はすぐにわかった。そして,その方向に知人を見つけた娘は,「あっ,○×さんだ。おとうさん,ありがとう。」のことばとともに走り去っていった。わたしは娘のうしろ姿をちょっとだけ眺め,すぐにいま来た道を引き返した。
 今朝の娘を見ていて,そのときのことを思い出した。
 昨日は数学のわからないところを説明した。少しでも頼られると,それはそれで気分のよいものである。しかし,それを見透かされてはいけない。威厳を保ちつつ,お互いに満足できるバランスをとる。これはなかなかむずかしい。