映画「舟を編む」

映画「舟を編む」を見た。本屋大賞を受賞した小説を映画にしたもの。小説は読んでいないので,あくまで映画の印象。

主人公は,よい下宿,よい仕事を得たばかりか,よい嫁と家までも手に入れた。なかなかの幸運だ。あの古い下宿屋は,店子一人でやっていけるのだろうか。それにあれだけの本を入れたら,家がつぶれてしまうのでは,という突っ込みは野暮か。

変わり者だが執着質で,辞書づくりにぴったり。言語学修士卒で出版社の営業というのはやや不思議だが,うまい具合に異動できたものだ。また簡単に成就してしまう「恋」は,リアリティがなく,ちょっと興ざめかも。

中止になりかけた辞書もすぐに続行に。軽い先輩も,本当はいい奴だった。そしていっきに12年が過ぎてしまう。もう少し苦労や挫折がないと,あまりにも安っぽくはないか。原作はどうなんだろうか。

また,前半のゆったりとした時間の流れに比べて後半はかけ足な印象。締め切りが近づくと慌ただしくなるのはわかる。でも,それまでの10年以上,もくもくと仕事をしてきた主人公が,はたしてこの最終作業を乗り越えられるのだろうか。

あくまでフィクションなのだから,こんなひねくれた鑑賞をする必要はないのだろう。ただ,主人公夫妻の描写はもう少し欲しかった気がする。主人公が妻に支えられていることはわかるが,妻が主人公にどのように支えられているのか。そこがよくわからなかったのは,私の想像力が不足しているからか。

辞書をつくるという,地味な仕事を取り組む主人公。現実の世ではまず起こりえない気もするが,細かいことを気にせず,テレビドラマでも見るように,その非現実を楽しめばよいのかもしれない。