
- 作者: 木村盛世
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/12/16
- メディア: 新書
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ものごとはさまざまな方向から見る必要がある。でも,何が真実であるか,素人にはわかりづらいことが多すぎる。たとえば,新型インフルエンザについては,弱病原性であっても,強病原性にいつ変異するかわからないので,十分な対策が必要だという話もある一方で,強病原性を想定した対策を行うことを疑問視する意見もある。
この本は,厚労省の内部の人による厚労省批判であり,内部告発と言えるものだろう。上記のような状況に陥っているのも,厚労省が既得権益を守らんとするためであり,医系技官の無能さのためと読み取れる。薬害エイズ問題など,厚労省に対しては,わたしも不信感がある。
もちろん,すべての役人が悪いわけではないのだろうが,もし悪いところがあるなら,それをさらけ出し,よい方向に向かって欲しい。この著者の行動が,その一歩であるのなら応援したい。また,この著者がこれからどのようになっていくのかも注目したい。
本書では,空港で行われたものものしい検疫,学級閉鎖の効果を疑問視している。検疫や閉鎖は,流行を遅らせることができ,対策を講じる時間稼ぎのためだと思っていた。しかし,限られた資源の多くが検疫にまわされ,国内感染後の対策ができていないとなれば,時間稼ぎの意味がない。
いままで行われていた新型インフルエンザ対策の問題点を,公衆衛生学の立場から批判する。わたし自身,公衆衛生学を知っているわけではないので,何が真実であるのか,正確なところはわからない。ただ,少しでも科学的な議論がなされることは歓迎したい。
効果があるだろう。やらないよりはよさそう。やっておけば不安が解消される。このような曖昧なことで,多くの人や予算が割り振られていたとしたら。そして,効果の検証も不十分なままに,それらが繰り返されているとしたら,このことに対して,将来,誰が責任をとるのだろうか。
この著者のような人がもっと現れ,問題点を洗い出してくれることを期待したい。そして,心ある役人が活動できる体制になって欲しいと願う。
ただ,この本の内容を,手放しに認めるのも問題がある。科学的議論という意味では,疑問に思うことも多くある。きちんとした理解には,詳しいデータが必要なのだろう。でも,それらを示さなくても,もう少し説得力のある解説に努めて欲しい気がする。
また,インフルエンザウイルスの「顔」と言っているものが,型であったり亜型であったりしているのではないか。亜型が変異することと,異なる型が優勢になることも混同してはいないか。科学的な議論のためにも,このような曖昧な記述はあってはならないと思う。この点では,この本はやや書き殴った印象がある。話題になったので急いで出したということなのだろうか。
専門家が科学的に議論して,その情報を一般にも公開していかなければ,ふつうの人たちは,非科学的な報道に右往左往するしかない。この点,専門家の議論も,マスコミの報道内容にも,不安が募るばかりだ。ふつうの人たちは,理解する力がないのではなく,理解するための確かな情報がないのだとわたしは思う。
感情的な厚労省批判ではなく,一般にもわかる科学的な解説を通した批判や啓発でなければ意味がない。出版にはタイミングもあろうが,そのために内容を犠牲にすることだけは避けて欲しいものだ。この著者の今後の本に期待したい。