失敗のメカニズム 忘れ物から巨大事故まで (角川ソフィア文庫)
- 作者: 芳賀繁
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2003/07/25
- メディア: 文庫
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そのような研究の成果が,この本にうまくまとまっている。さまざまな実例ともに,その根拠を説明し,失敗のメカニズムを解析していく。
「するな」と注意するのではなく,できないようにすることの重要性は,頭でわかっても,現実はうまくいかないことの象徴だ。アフォーダンスという考え方もおもしろい。「ガラスは割られることをアフォードし,ベニアは落書きされることをアフォードする。」という例は,大変わかりやすくおもしろい。
ユニバーサル・デザインの普及に,消費者の意識改革の重要性を指摘する。「必要性も考えずに機能が多い方を選んだり,表示の見やすさや操作のしやすさよりも見栄えを重視したりし続けるなら,メーカーとしても「売れる商品」をつくらざるをえない」と,消費者の責任に対しても厳しい目を向ける。
「リスク・ホメオスタシス説」という考え方が紹介されている。批判もある説と言うが,興味深い内容だ。人は,危険を感じるところでは警戒するが,安全なところでは油断する。いくら安全対策を行っても,人のこのようなゆるみから,事故率はもとに戻ってしまうという考え方だ。確かに,安全対策を行った上で,危機意識を維持することは難しい。万全な体制には,大きな落とし穴があるようだ。
トラブルが発生したとき,それを分析して再発防止に努めるのは当たり前のことだ。でも,実際には,犯人探しや責任問題に終わることが多く,そのためにミスを隠すようになる。当たり前の対策がしっかりできないと,取り返しのつかない問題を引き起こすのは時間の問題だろう。過去にそのようなことが多数あるにもかかわらず,事件が起こると同じこと。自分自身のこととして,再認識したいと思う。
取り締まりを厳しくして安全を守る方法をパターナリズム(父権主義)という。シートベルトの着用の取り締まりがその例である。高校生のオートバイ禁止などもそうだ。でも,そのようにしていると自分で判断する能力が失われる。「安泰」と「安全」の比較もおもしろい。「安泰」は何もしない,「安全」には行動がある。「お家の安泰を願うことはあっても,旅の安泰を願うことはない」という説明がわかりやすい。
大変興味深い本であったが,一部にわかりづらい表現がある。もう少し文章を推敲し,簡潔でわかりやすい文を心がけてくれるとありがたいのだが。