脳のはたらきがわかる本

脳のはたらきがわかる本 (岩波ジュニア新書)

脳のはたらきがわかる本 (岩波ジュニア新書)

脳のはたらきについて,興味深い事例が紹介されていてわかりやすい。印象に残った内容を少し書き出してみる。

長時間正座をすると,足のしびれも通り過ぎ,ほとんど感覚がなくなることがある。このようなとき,立ち上がろうとしても,バランスがとれずよろける。これは,筋肉のはたらき加減をモニターしている神経が,正座で圧迫されて,うまく機能していないためだという。また,ビリビリする感覚障害が起こりやすいのは,そのような末しょう神経は太く,圧迫の影響を受けやすいかららしい。

刺激のすべてに対して反応していたら,脳はパニックになってしまう。それくらいさまざまな刺激を,わたしたちは絶えず受けている。だから,それらの中から重要なものを選び出すシステムができている。痛む部分をさすると,痛みが軽くなる。触覚の伝達速度は,痛みの伝達速度より速い。したがって,触れられている刺激が先に届いて優先され,次に届く痛みの刺激をブロックするらしい。

扁桃体など,からだの部位には,耳慣れないことばがよく出てくる。ただ,扁桃がアーモンドの意味だと知れば,もっとわかりやすくなる。また,海馬の先端にアンモン角とよばれる部分がある。そのアンモンは,アンモナイトアンモニアなどのアンモと語源が同じで,ヒツジの角をもった古代エジプトの神に由来しているらしい。

扁桃体は,ものの好き嫌いの判定をしている。好き嫌いの基準は,たった一度の大きな刺激が原因で決まることがある。危険な経験を回避するため,そのようになっているのだろう。好きだったスイカに,塩とまちがえて化学調味料をかけた。それを口に入れ,驚いてはき出した経験により,著者はスイカが食べられなくなったという。このような話は他でも聞いたことがある。

食事しながらの話し合いは理にかなっている。空腹時には交感神経が興奮していて,アドレナリンが多い状態なので,けんか別れになりやすい。でも,食べながらならおだやかな話し合いが可能になると。

水中生活をするほ乳類は,完全に眠るととおぼれてしまう。だから,左右の大脳半球が片側ずつ眠るらしい。鳥も同じように,大脳半球が交互に眠るという。片目を開けて眠るフクロウの写真が興味深い。

このような話を交えながら,脳のはたらきについて,いろいろな視点からまとめてある。ただ,高校生に語りかけることを意識してか,好きな女の子が云々というくだりが多い。少々古くさく,ステレオタイプな表現であるのが気になった。

なお,くだらない指摘ではあるが,18ページの灰白質のルビは,正しくは「かいはくしつ」であると思う。