「イノベーション悪意なき嘘」

イノベーション 悪意なき嘘 (双書 時代のカルテ)

イノベーション 悪意なき嘘 (双書 時代のカルテ)

知的財産権関係の本は,以前何冊か読んだことがあった。いままであまり意識していなかったが,今回,この本を読んではじめて,この著者の経歴を知った。物理学科出身で技術屋から出発しているようだ。

物理出身ながら化学系の企業に就職し,“周辺”の仕事についていた。“周辺”がいつしか中心になり,また新たな展開をくり返す。本人の能力と努力の成果には違いないが,興味深い発展だ。

部分最適な選択をくり返していくとどうなるか。現在の社会の動きを見ていると,確かに不安になる。多くの生き物は将来の展望はもたず,直近の情報から行動を決めていると思う。そもそも生物の進化だって,先を見越した変化ではなく,その都度の選択からできた結果である。でも,知能をもった人は,先を読んで行動することで,他の動物とは異なった発展が可能になったはず。

アンバンドリングという言葉の意味をはじめて知った。古くはIBMの事業戦略でもあったとは。アンバンドリングを進めることで,ユニバーサル・サービスが危うくなる。通信サービスは,日本中のどこに住んでいようが,等しい環境を手に入れることができた。このようなユニバーサル・サービスは,一部の大口ユーザーの負担によって成り立っていた。通信が自由化され,さまざまなサービスが切り離され,アンバンドリングされた。その結果,大口ユーザーが安価なサービスを受けるようになった。そして,ユニバーサル・サービスは危うくなる。

会社ではじめてインターネットを専用線で接続したとき,64Kbpsだったが非常の高価だった。それは回線の安定性を保証していたからだ。いまや自宅が光回線で接続されている。でも,その回線はかなり安定していると思うが,プロバイダーの姿勢としてはベスト・エフォートだろう。最大限の努力をするが,トラブルがあったらごめんなさい。だからできる価格なのだろう。

都会に住んでいると便利な世の中になっている。企業の業績にとっても,有利な世の中に変えてきている。でも,そこで失うものにも目を向けないと,取り返しがつかないことにはなりはしないか。「あれよあれよ,そんなばかな」と。