「ダーウィンの足跡を訪ねて」

ダーウィンの足跡を訪ねて (集英社新書)

ダーウィンの足跡を訪ねて (集英社新書)

著者のダーウィンに対する思いが,本の中のあちこちで感じられる。実際に著者自身が出かけて撮影した美しい写真も臨場感を加える。語られるダーウィンにかかわる興味深い話題も豊富で,楽しめる1冊だ。
わたしにとって,長谷川眞理子の本は読みやすく,ダーウィンの話題も興味深いものであるため,PR文のようになってしまう。興味をもった内容を以下に記しておく。

ダーウィンは,さまざまな異文化の人々に対して,同じ人間だと感じる感性を持っていた。奴隷制度に反対し,黒人ともほぼ対等に接していた。宗教と科学の間で,進化の理論を公表する。ダーウィンは何を悩み,どのように考えていたのか。著者のみならず,大変興味深い。
古生代の6つの時代は,イギリスの地質をもとに,イギリスの地質学者が命名したもの。この古い時代の研究はイギリスがもとであった。カンブリア,オルドビス,シルルは,ウェールズの古い地名や部族の名らしい。
ガラパゴスのフィンチの話は有名だ。ダーウィンはそれぞれの島に適応したさまざまなフィンチから,進化の考えをもつようになった言われている。でも,それは違うらしい。ダーウィンは,フィンチにあまり注意を払っていなかったという。
彼の心にひっかかっていたのは,マネシツグミであった。島によって鳴き声が違うことに気付いた。また,スペイン人はゾウガメの微妙な違いから,どの島のものかを当てることができる。このようなことから,種の不変に対して,疑問を感じるようになり,進化論へと発展していったようだ。その後,採取したフィンチにも,さまざまな種類があることがわかった。
ダーウィンの兄の恋人であるハリエット・マーティノーは教養ある女性で,作家,思想家であった。そのマーティノーから,ダーウィンマルサスを紹介された。自然淘汰の考えは,マルサスの「人口論」の影響を受けていることは有名だ。ダーウィンは,マルサスの著作を読んだだけではなく,マルサスと親密に付き合っていた。
絶対温度の単位になっているケルビン卿。爵位を受けるとき,バッキンガム宮殿に出かけるのが面倒だった。たまたまヴィクトリア女王が自分の屋敷の近くにやってくると知り,自分の屋敷で爵位を授かるように頼み,そのようになったという。なかなか大胆な話だ。
植物学者のジョーゼフ・フッカーが,1つの種について熟知していないものは,種の変遷を語る資格はないといった。その言葉はダーウィンフジツボの研究に向かわせた。ダーウィンの研究は,いまでももっとも優れたフジツボ研究の1つになっている。

これらのほかにも,ダーウィンの家や結婚のこと,家族のことも。ダーウィンの研究の背景がさまざまな視点から紹介されている。