ようこそニュートリノ天体物理学へ

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この本の特徴は,まず安いこと。次の文字が大きいこと。ノーベル物理学賞を受賞した著者が,できるだけ多くの人に読んでもらえるようにという企画である。

 ニュートリノ天体物理学を理解するためには,かなり高度な知識が必要になる。でも,そんなことを気にしないで,とにかく読み進むのがよいと思う。新しい研究分野を切り開くためには,それまでの知識だけではだめだ。新しい発想や状況に応じた判断力が必要になる。著者は自身の成績の悪さを公表する。それに負けない発想を暖め続けた自信がそうさせるのだろう。

 著者のこれまでの研究の成果や方法を,高校生や一般に向けての講演から感じることができる。自慢話といえばそれまでだが,やはり人を引きつける何かをもっているのだろう。また,その何かが,著者の研究にも大いに貢献してきたのだろう。

 なお,科学の内容を,役に立つか,立たないかと単純に二分して考えることが横行している。著者のノーベル賞受賞にあたってのインタビューでも,「その研究はどんな役に立つのでしょうか」という質問があった。科学の研究には莫大な費用がかかり,その多くは税金によっている。世の中の役に立つ研究をすることは大切だ。

 しかし,いま身の回りにある最新技術の多くは,ずっと以前には役に立つかどうかわからない基礎研究から始まっている。ものごとの根元を極めようとする研究は,将来役に立たないかもしれないが,社会を大きく変えるほど重要な研究に発展するかもしれない。そのような研究,知の探究を許容する社会がなければ,「役立つ研究」も生まれない。