学校って何だろう

学校って何だろう―教育の社会学入門 (ちくま文庫)

学校って何だろう―教育の社会学入門 (ちくま文庫)

学校について,当たり前だと思っていたこと,疑問に思っていたこと,反感を感じていたことなど,さまざまなことが登場し,考える視点を提供する。また,視点を変えると考え方も変わることを自然に示す点は,もともと中学生を対象にした新聞の連載だったからなのだろう。
しかし,この本は,中学生だけに読ませていてはもったいない。すでに卒業した若者はもちろん,中学生を子にもつ親,中学生と日々接している先生にも,新鮮な視点を提供するのではないか。

「どうして勉強するの?」にはじまり,テストにはなぜ制限時間があるのか,答案にはなぜ名前を書くのか,などを考える「試験の秘密」のほか,「校則はなぜあるの?」,「教科書って何だろう」,「隠れたカリキュラム」,「先生の世界」,「生徒の世界」と続き,「学校と社会のつながり」で終わる。

「教科書って何だろう」“教科書の知識は役に立つのか”での展開は興味深い。教科書の知識は,1つずつの知識としてではなく,いろいろな知識のつながりとして,重要な意味をもつ。いろいろな知識のまとまりが,その人のものの見方や考え方をつくりあげていくものなのだ。
しかし,教科書の知識をどれだけ覚えたかを問う試験が,その本来の機能を阻害する。そのような試験は,問いやすく答えやすい。また,「試験に出すぞ」と言うことで,記憶を強制できる。この方向に向かえば,教科書の知識は,試験のためのものになり,その後の人生にとって,“役立つもの”ではなくなる。この指摘は,いまの教育の問題を言い当てているように思う。

「学校と社会のつながり」“選べることと選べないこと”で,個人の努力のみが強調される日本社会での問題を指摘している。いい学校に入れたのは,自分が努力したからだけでなく,そのように努力できる境遇があったからとも考えられる。このようなことを,恵まれた環境にある人は気付く必要がると。このようなわかりやすい視点から,社会的責任について,うまく説明をしていると思う。