ダイコンはどのようにして春を知るのか

キッチンの大根が春を知るで,

キッチンは夜遅くまで電気がついている。電気がついている時間は,毎日ほぼ同じなので,日の長さが変化したとはとらえないだろう。また,寒いときには暖房をつけるので,ある程度は暖かい場所になる。ただ,夜中には電気も消えるし暖房もない。

このような場所で,変わっていると考えられるのは最低気温だ。大根は,最低気温がある温度以上になると,花芽をつけるのではないか。これはあくまで推測でしかない。いつか実験を設計して,これを調べてみたいものだ。

と書いた。しかし,社内でこの話題を出したとき,ダイコンは長日植物に分類されており,またネットで調べた条件とも合わないという意見が出た。そこで,もう少し調べてみたら,それほど単純なものではなかった。

まずは用語の整理から。花芽を「花になる芽」ととらえ,つぼみの小さなものをさして書いていた。でも,正確には,そこまで成長したものではなく,花になる大元の芽のことらしい。したがって,外見ではわからない場合もあるという。芽を顕微鏡などで観察して,雌しべや雄しべの元となる組織(原基)があるかどうかで区別することも。だから,小さなつぼみをさして花芽とよんでいたのは正確ではない。

花芽が成長して,花の茎などが伸びていくことを抽苔(ちゅうだい)というらしい。わたしが確認したのは,抽苔した状態といえるのだろう。また,ダイコンが花を咲かせる条件はダイコンの種類によって異なる。でも,今回観察したダイコンは,おそらく次のようなしくみで花をつけるのではないかと思う。

種子もしくは植物体が一定期間低温にさらされることにより花芽をつくり,長日条件(日が長くなる条件,実際には暗期が短くなる条件)で抽苔する。

そこで,もう一度わが家のダイコンについて考えてみる。まずは女房によく聞いてみると,水栽培できるのは3週間くらい。ダイコンをよく買っていたので,ずっとキッチンに置いてあるように思えただけだったが,それは異なるダイコンだったことも。また,最近買ったダイコンは,すぐに小さなつぼみが出てくるようだとも。

ダイコンは,わが家にやってくる前に,低温条件と長日条件をクリアしている可能性はないか。特に,最近買った大根は,すぐに小さなつぼみができることから,この可能性が高い。だから,キッチンで水栽培すると,すぐにつぼみが出てくると考えられる。

では,3週間くらいたってつぼみを出したダイコンは,どのように説明ができるのか。

ダイコンは,種子だけでなく植物体でも,低温に感応するという。12月〜2月ごろに買ったダイコンは,外気に触れていれば低温条件はクリアするだろう(注)。ただ,長日条件はまだ微妙なのかもしれない。それが,キッチンのような人工的な長日条件が作用したと考えられないか。社内での指摘は,このような推測も含まれていた。

「暖かくなって来たから花芽をつけたのだろう」と単純に思っていた。知らず知らずのうちに,人の見方,感じ方で考えてしまっていた。でも,植物が春を知るしくみは,人が春を感じるのと同じとは限らない。そんな当たり前のことを改めて考えさせられた。まだまだ修行が足しません。

検索すれば,いろいろ出てくるとは思いますが,参考になるサイトを2つだけあげておきます。
作物別環境保全型農業栽培の手引き:だいこん
広島県農業情報ローカルネットワークシステム:カテゴリー別情報

(注)高温にさらされると低温条件がキャンセルされるしくみがあるらしい。そのため,「トンネル」という方法を使って,昼間に高温をつくることがある。