地震は妖怪騙された学者たち

地震は妖怪 騙された学者たち (講談社プラスアルファ新書)

地震は妖怪 騙された学者たち (講談社プラスアルファ新書)

できると思われていた地震予知は,予想外の複雑さで挫折している。築いた理論を越える新事実が,研究が進むほどに生まれてくるのだ。地震複雑系なのだから当然だろう。でも,地震予知ができると,何年か前には確信していたように思う。地震学者は,地震に騙され続けてきた。

地震を予知するには,地震の「症例」が少ないと著者はいう。地震の予知は,単に地震だけを研究しているだけではだめで,地球を研究する総合的な科学であることを主張する。この当然のことが,一般には理解できていない,とわたしも思う。地震の予知には,地震観測や地殻の変動などを調べ続ければよいわけではない。いつ役立つともわからない地球に関する研究が,いつの日か重要なヒントになることもある。基礎科学の重要なのはこの点にあると思う。

地球科学の内容は,ときとともに古くなる。おもしろい考えだと感心していると,しばらくしてそれが誤りだったりする。素人には,与えられた事実と,それを素材にした論理展開だけが頼りなので,筆のたつ著者の論理に従ってしまう。有名な学者の権威に,耳を傾けることになる。

そのような前提で,本書も理解すべきだろうが,とにかく話題が豊富でおもしろい。 ハワイは地震が多い。でも,観光を優先した建築基準になっていることには驚く。「地震学者はマグニチュードを決めるたびに良心の痛みを感じている」(P.121)という,地震学者自身のことばは,マグニチュードを正しく理解するのに有効だろう。

チリ地震で,地球の自転に影響が生じたことや,地球が釣り鐘のように何日もふるえ続けたこと。伝書鳩の大会で,目的地に到達しないハトが多数出たのが,磁気嵐の影響だったこと。炭素14による年代測定は,核実験以降の地球では使えないこと。深海底にすむウシナマコが,同じ方向を向いていることなど,話題豊富だ。

仕事の関係で,地球科学について少し勉強しなくてはならない。そのため,まずは読みやすそうなものを選んだ。仕事のネタと考えると楽しみも半減するが,それを感じさせないほどに引き込んでくれたのは,著者の筆のよるのだろう。

なお,新しいタイプの新書が,各出版社から出てきた。新書好きのわたしは,それを歓迎し期待していた。しかし,それらの多くは,値段の割には内容が少なく,新書のコストパフォーマンスを大きく下げるものであった。そのような印象があったため,この本も購入をためらった。

しかし,実際に読んでいると結構よい。やはり著者によるのだろう。シリーズで判断せず,著者を見る必要がある。チェックするシリーズが増え,たいへんだが楽しみでもある。