著作権の考え方

著作権の考え方 (岩波新書)

著作権の考え方 (岩波新書)

この本は,弁護士ではなく,文化庁著作権課長が書いているところに興味がある。ふつうの著作権関係の本とは,少し視点が異なるように感じる。書名が示す通り,著作権の考え方について書かれている。現行の著作権法にもとづいたルールの解説だけではなく,その意味などについての説明がある。

著作権関係の本には,権利者の権利を守るためのものや,一般の人が権利侵害をしないようにするためのものがある。これらの多くは,弁護士や企業の知的所有権関係の仕事をしている人が書いていて,便利であり有用であるが,本来の意味が理解できているかは疑問が残る。

また,一方で,著作権法の意義や歴史などからしっかりと書かれている本もある。これらの多くは,大学の先生が書いていて,著作権について深く知ることができるが,実際の問題にどのように対処したらよいのかわかりづらい。

この本は,どちらかと言えば,後者に属すものである。ただ,業界に属さない立場,それどころか,業界に対する立場での発言があって,いままでにない新鮮さを感じる。業界の力関係で権利の範囲が決められていることや,自分の不満を不正という業界のことなど,何が正義か疑問に思うこともある。

また,契約の重要性を主張している。不動産を借りる場合,関連法令を調べる人はほとんどいない。用意されている契約書を確認し,それを交わすことで成り立っている。ところが,著作権関係のことがらのほとんどは,契約を交わすのではなく,著作権法に頼っている。この点も作者の訴えたいことのようだ。

ネットワーク関連では,日本の著作権法は世界一進んでいるという。きっと,そのあたりで著者は活躍したのだろう。このような点が,文化庁の人であると感じさせる。