わかったつもり

わかったつもり 読解力がつかない本当の原因 (光文社新書)

わかったつもり 読解力がつかない本当の原因 (光文社新書)

部分部分の関連をつかむことができると「わかった」ことになる。その関連をつかむためには,その内容に関する知識が必要だ。表面的な関連で「わかった」と思っていると,それは「わかったつもり」であって,実はもっと深い読みがあったりする。
関連をつかむための知識の体系「スキーマ」は,文脈によって活性化される。読み手がもっているさまざまなスキーマのうち,何が活性化されるかによって,異なる意味が引き出されることもある。ただ1つの文脈,安易なスキーマの適応が,間違った理解を生み,「わかったつもり」の状態にする。多様な文脈を適応させて,さまざまなスキーマを活性化させながら,よりわかるようにもっていくことが大切である。

このような分析を,小学校の教科書の題材などを使って,わかりやすく進めていく。ボンヤリとしていた題材の読みが,より明確になってくる展開とともに,著者の主張を読者の思考に共鳴させる展開はうまい。 また,ところどころに太字を使ったり,重要な内容を囲んでまとめ,何度も掲載したりする手法も,わかりやすい本に仕上げる著者の工夫が感じられる。ハウツー本にはよくある嫌いなな手法だが,この本の場合はうまく機能していると思った。

全体の雰囲気に流されるのではなく,部分にある矛盾や疑問を契機にして,より深くわかっていくことを意識する。ステレオタイプスキーマといった受け入れやすいものにも注意する。「いろいろ」という表現で,思考停止しない。これらが「わかったつもり」を回避する鍵だと著者は主張する。
最後に「整合性」というキーワードがある。科学の信憑性を考える上でも重要な概念である。「整合性」で大学入試問題を考えると,いままであいまいであったことが,明確になってくる。このことを国語教育においても配慮することを著者は提案している。

「整合性」は,この本の最も重要な言葉であると思う。しかし,それが最後に出てくることには,著者のどのような意図があるのか。この疑問を追求すると,この本をさらに深読みできるのだろうか。