細菌と人類

細菌と人類―終わりなき攻防の歴史 (中公文庫)

細菌と人類―終わりなき攻防の歴史 (中公文庫)

2008年12月29日購入

ペスト,コレラ,腸チフス赤痢,淋病,ジフテリア結核,梅毒,破傷風炭疽病,ハンセン病など,さまざまな感染症の歴史がまとめられている。古くは異なる病気が同じものと見なされたり,その記録を探るのも困難があろう。

病気の歴史は,病気とのたたかいの歴史と同義だ。その解明と治療に向けて,多くの科学者の努力がある。必死に探る姿から,目の前の病人を救いたいという思いが伝わる。栄誉欲による探究のものもあるのだろうが,それを感じさせない献身的な取り組みがある。

ただその一方で,今から考えると人権を損なうような研究方法もある。また,多くの犠牲の上に,研究の成果があることも事実だろう。

いわれのない差別も,感染症には多くあった。特に,ハンセン病については,日本では2008年まで隔離政策が続いていた。はじめは未知のものに対する恐怖心から,それが徐々に固定化していく。現在でも,エイズなど新しい感染症に対する偏見はなくならない。また,新型インフルエンザに対する世の中の反応でも,そのようないわれのない差別が見え隠れしている。何と愚かなことだろうか。

また,これらの病原体を使った生物兵器の開発,実験が行われている。自らを犠牲にしてまでも,病気の解明や治療法の開発に力を注ぐものがいる一方で,その知識を使って人殺しを考えるものもいる。人類の醜い心とのたたかいは,特効薬がないだけに難しい。

間違ったことを繰り返さないためにも,過去の事実を知っておく必要がある。また,未知のものに対する過剰な反応を避けるためにも,過去の感染症の歴史と,それが起こるしくみ,さらに治療法などについて,知ることは大切だと思う。過去の知識があれば,新しい感染症に対しても,冷静に対応できるものと信じたい。

以下は,個人的なメモ。

ペニシリンカビがブドウ球菌を殺すことを最初に発見したのはフレミングではなかったらしい。でも,フレミングは,この現象を自身で発見し,これが感染症の治療に使えることを考えた。彼のこの偉業は揺るがない。(P.20)

731部隊に関わる記述。日本は,保菌したノミを中国の都市に用い,それによる被害が出たらしい。ただ,終戦後,この計画の首謀者である石井四郎は,アメリカ軍と取引をして釈放された。そして,アメリカ軍はそのノミを,朝鮮戦争で使ったらしいと。(P.52)

血清とワクチンが混同されているような記述だと感じた。当時は血清だと思うが。(P.230)

偉大なパスツールの醜い一面。これが事実なら残念でならない。(P.257)