新型インフルエンザの検査でPCR法

しばらく前に,新型インフルの検査法がPCR法?を書いた。新型インフルエンザウイルスはRNAを遺伝子にもつのに,どうしてDNAを増幅するPCR法で調べることができるのか,と言う疑問があったからだ。その後,この件について,そのままになっていたが,ここで少し整理してみることにする。

DNAの入った溶液に,DNAを合成する酵素であるDNAポリメラーゼと,プライマーとよばれるDNAもしくはRNAの一本鎖断片を加える。プライマーには,DNAの増幅させたい領域の最初の部分に結合するものを選ぶ。

この溶液を高温にすると,DNAの二重らせんほどけて一本鎖DNAになる。その後,徐々に温度を下げていくと,一本鎖DNAの目的の部分にプライマーが結合する。さらに,DNAポリメラーゼが働いて,プライマーに続いてDNAが合成され,目的の領域だけ二本鎖のDNAになる。つまり,目的の領域だけDNAが2倍になる。

また高温にして2本鎖DNAをほどいたのち,温度を下げながら,プライマーを結合,DNAポリメラーゼを働かせて,目的の領域だけ2本鎖DNAにする。これで,目的の領域のDNAは4倍になる。この操作をくり返していくと,プライマーで指定された領域のDNAが,2倍,4倍,8倍,16倍,…,と増幅されていく。

このような繰り返し反応がポリメラーゼ連鎖反応Plymerase Chain Reactionで,頭文字からPCRとよぶ。この反応を行うと,プライマーを選択することで,DNAの特定の領域を飛躍的に増幅することができる。

病原体の遺伝子を特定できるプライマーを準備してPCRを行えば,特定の領域が増幅されるかどうかで,病原体の存在を確認することができる。これがPCR検査だ。PCR法以外には,病原体に特異的に反応する抗体をつくって調べる方法などがあるようだ。

そこで新型インフルエンザである。これはRNAを遺伝子としてもつRNAウイルスだ。したがって,ふつうのPCR検査では調べることはできない。そこで,逆転写酵素を使ってRNAをまずDNAにする。そして,できたDNAにPCR法を適用して調べればよい。この方法はRT-PCR法とよぶ。RTは逆転写Reverse Transcriptionで,RNAからDNAをつくることを意味する。

なんだ,それなら新型インフルエンザの遺伝子検査をPCR法と言って問題はないではないか。さらに,リアルタイムPCR法という方法もある。これは,DNAの特定の領域をプローブとよばれる分子で置き換える方法で,プローブには蛍光物質が結合してあって,置き換わっている量を時間とともに計測できる。実際の検査は,これらを併用しているらしく,だから「PCR検査」をよんでいるとも思える。

このように考えると,以前に書いた疑問は素朴すぎた。もう少し考えれば,すぐに解決できるものであったことを反省。

なお,新型インフルエンザは,ふつうのA型であるA/H1N1のプライマーやプローブでも反応する。でも,それでは新型とふつうのA型の区別ができない。そのため,swA/H1N1のプライマーやプローブがつくられ,これで検査をしているようだ。